スピード・オブ・トラスト―「信頼」がスピードを上げ、コストを下げ、組織の影響力を最大化する | |
Stephen M.R. Covey Rebecca R. Merrill
キングベアー出版 2008-11 おすすめ平均 |
スティーブン・M・R・コヴィーの『スピード・オブ・トラスト―「信頼」がスピードを上げ、コストを下げ、組織の影響力を最大化する』を読みました。
本書はあの『7つの習慣』の著者であるスティーブン・R・コヴィーの息子のデビュー作なのですが、「2008年、いろいろな本を読みましたが、この本がおそらく、私の中でダントツの今年一番良かった本」とkazさんのブログにて絶賛されているのを見て、読んでみることにしました。
結論から言うと、これは必読の一冊だと思います。
本書のテーマは「信頼」です。
世界中のすべての人、人間関係、チーム、家族、組織、国家、経済、文明に共通するものが一つある。それがないと、どんなに強力な政府も、どんなに成功している企業も、どんなに繁栄している経済も、どんなに影響力のあるリーダーシップも、どんなに素晴らしい友情も、どんなに強靭な人格も、どんなに深い愛情も壊れてしまう。
逆に、それを育て活用すれば、人生のいろいろな面で類まれな成功と繁栄を築き上げることも夢ではない。なのに今の時代、それはほとんど理解されず、おざなりにされている。
それは何か。「信頼」である。
しかし、信頼というと主観的なもので、実体がなく、持とうとしてもてるものではないと多くの人が思っているのではないかと思います。
本書では「信頼」を科学しています。
つまり、実際的かつ具体的で実用的な財産として、築き、育て、与え、回復することができるものだとしているのです。
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● スピードとコスト
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本書で特に逸脱していると私が感じた概念が二つあるのですが、そのうちの一つに「信頼の結果はスピードとコストに表れる」というものがあります。
信頼の量は常に、スピードとコストという二つの結果として表れるということである。信頼が減ると、スピードが低下し、コストが上昇する。
それに対し、信頼が増えるとスピードが上昇し、コストが低下する。
例えば9.11以前のアメリカの空港では安全に対する信頼があったため、セキュリティ・チェックにさほど時間がかからず、出発時刻の30分前に着くようにすれば大丈夫でした。
しかし事件後の今では、信頼を高めるために厳重な手続きと検査システムが導入されたことから飛行機での移動に要する時間とシステム導入によるコストが上昇しています。
営業でも同じで、信頼の確立されていない人は「買ってください」と多くの見込み顧客を回らなければならないため、非常に効率が悪くなります。
それに対し周囲から信頼され、ブランドを築いている人は、顧客のほうから紹介されたり、「売ってください」とお願いされたりするため、購入する意思のある人を中心に時間を使うことができ、非常に効率が良くなります。
信頼が低いとスピードとコストに悪影響が生まれ、低い信頼によって発生する「税金」を支払わなければならなくなり、それは極めて高額にのぼります。
それに対し高い信頼は「配当」をもたらし、それはときに信じられないほど高額になるのです。
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● 信頼性の四つの核
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もう一つは、「信頼性の四つの核」という概念です。
信頼というと、「誠実さ」だとか、「正直である」とか、そういった人格的なものを連想することが多いと思います。
しかし、信頼が「人格」だけで決まると考えるのは誤りで、それに加えて「能力」が同様に重要なのだと本書では述べられています。
例えば非常に重要な仕事を誰かに任せるときに、「人格」は素晴らしいけれども「能力」の低い人に任せることと、「能力」は素晴らしいけれども「人格」に信用がない人に任せることは同じくらいリスクを伴うものだと思います。
人格と能力の両方が信頼には不可欠なのです。
本書ではこの2つを更に分解して、「信頼性の四つの核」としています。
1.誠実さ
●正直であること、高潔であること、有限実行であること、表裏がないこと、自分の価値観や信念に従って行動する勇気を持つこと
●一貫性:根底にある価値観や信念と行動が一致している
●勇気:困難な状況下にあっても正しいことをする
2.意図
●率直な動機や相互の利益に基づく思惑、その結果として表れる行動
3.力量
●他者の信頼を得るための才能、態度、スキル、知識であり、結果を出す手段
●才能:自分の才能をできるだけ活かすにはどうしたらよいか
●スキル:将来どんなスキルを習得する必要があるか、スキルの継続的向上にどの程度努力しているか
●自分の強み(および目的)で勝負する―自分の強みを上回るものがある、それは目的の強みだ
●適応力を持ち続ける
●自分の進む方向を見極める
4.結果
●過去の実績、実行力、正しいことをやり遂げるかどうか
最近ではパーソナル・ブランディングのツールとして、ブログ・メルマガ・その他いろいろなマーケティング・ツールが注目されています。
現代において個人がブランドを築くことは非常に大切だと思います。
しかしパーソナル・ブランドの本質が「信頼」にあることを考えると、個人のブランドを築こうと思うならばこのようなマーケティング手法にばかりとらわれていてはダメで、自分の誠実さ、意図、力量、結果を着実に高めていかなければならないことが良く分かります。
自分の意図を明確にすることをせずに、意図に基づく誠実な行動をとらずに、望む結果を出すために必要なスキルを日々磨くことをせずに、実績を残すことなしに、真のブランドなど築けるはずがないのです。
本書はパーソナル・ブランディングを考える上でも必読の一冊でしょう。
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実は本書は大きく分けると
1.自分自身の信頼
●決めた目標を達成したり、約束を守ったり、言ったことを実行する能力に対する自信のように私たちが自分自身を信頼するとともに、他者にも信頼されること
●原則:信頼性
2.人間関係の信頼
●他者に対する「信頼口座」を確立し、増やすにはどうしたらいいか
●原則:行動の一貫性
3.組織の信頼
●企業、非営利組織、政府機関、教育機関、家族、さらには組織のチームなどありとあらゆる組織においてリーダーはどうしたら信頼を得られるか
●原則:一致
4.市場の信頼
●会社のブランド、個人のブランド
●原則:評判
5.社会の信頼
●他者や社会全体のために価値を創出すること
●原則:貢献
という構成になっていて、今回はそのうちの第一の波:「人間関係の信頼」にしか触れていません。
しかし残りの箇所も同様に非常に濃いです。
最近は企業の不祥事がクローズアップされがちですが、そういう中で自社の軸を築く上で、さらには信頼・ブランドを築くマーケティングを考える上で、マストな内容だと思います。
まだあまり注目されていないのが不思議な、素晴らしい一冊なので、是非読んでみてください。
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以下、私用メモ
●信頼を築き、育て、与え、回復する方法を身につけると、現在のみならず未来の人生の軌道を変えることができるのだ。
●できるだけ手っ取り早く信頼を回復したければ、どんなに些細なことでもいいから自分自身と他者に対して約束をし、それをきちんと守るのが一つの方法
●不信が社会に蔓延すると、あらゆる種類の経済活動に一種の税が課されることになる。これは、高い信頼が築かれている社会では支払う必要のない税である
●信頼がもたらすスピードほど速いものはない
●信頼は、人にやる気を起こさせ、鼓舞する最も強力な手段の一つである
●自分との約束を守らないでいると、自信が切り刻まれ、人格の弱さとなる
●自分との約束を守ると、自分への信頼度は高くなり、高い自己イメージが持てる
●「信頼性の4つの核」が会社のマーケティング方針になる
●規則の強化を声高に叫ぶ企業は多い。しかし、自らの価値観を明確にした上で、その価値観を実践する方法を社員に指導しようという企業は少ない。
●あなたはどんな人で、どんな価値観を持ち、何を信念としているか―それがあなたの錨であり、北極星である。そういうことは本で学べるものではない。自分自身の精神の中に見つけ出すものなのだ。
● 信頼されるリーダーの十三の行動
1.率直に話す
正直に話す、真実を話す、自分の意見を明らかにする、ありのままに表現する、事実をゆがめない、真実を操作しない、誤った印象を与えない
他者を尊重する
2.透明性を高める
オープンになる、偽らない、人々が確認できるやり方で真実を話す
隠さない、心にしまわない、抱え込まない、秘密を持たない
3.間違いを正す
ただ謝るだけでなく、償いをする
4.忠誠心を示す
他者に花を持たせ、その人の貢献の意義を認め、創造性の発揮、強調、アイデアの自由な享有を通じて信頼を飛躍的に拡大することを社員に促す環境を構築する
誰かの話をするとき、その人がそばにいるつもりで話す
誰かに何かを改めてもらいたいのであれば、直接話す勇気を持つ
6.結果を出す
7.より上を目指す
退化しない、悪化しない、過去の栄光にあぐらをかかない
フィードバックを求め、間違いから学ぶ
8.現実を直視する
現実から目を背け、やがて消えてなくなるか、実在しないかのように思い込まない
困難な問題に正面から取り組む
悪い知らせも告げる勇気を持つ
9.期待を明確にする
期待がどの程度満たされるか、または裏切られるかが信頼に影響する
10.アカウンタビリティ(結果に対する説明責任)を果たす
11.まずは耳を傾ける
聞くふりをしたり、自分が話すことを頭の中で考えながら話す順番を待たない
12.コミットメントし続ける
13.他者を信頼する
● 低信頼組織
・事実の操作、歪曲が行われる
・情報が抱え込まれる
・新しい考え方があからさまに抵抗を受け、抑え付けられる
・間違いが隠蔽される
・責任のなすりあいや他者の悪口が横行する
● 高信頼組織
・情報がオープンに共有される
・間違いを成長の糧とする
・文化が革新的かつ独創的
・その場にいない人にも忠誠心が示される
・透明性が一つの価値として実践される
● 組織の「信頼性の四つの核」
1.誠実さ
組織のミッション・ステートメントやバリュー・ステートメントを作成する
全員を関与させる
約束を守る文化を創る
2.意図
信頼を築くような動機と原則を繁栄するミッションや価値観を持つ
思いやりの規範を示す
3.力量
組織内の構成やシステムを改善し、必要な才能をひきつけ、維持する
トレーニングや指導を継続的に提供する
4.結果
段階的な目標達成や全員の考えの統一を可能にするシステムにより、望ましい結果の共通ビジョンを持てるようにする
スピード・オブ・トラスト―「信頼」がスピードを上げ、コストを下げ、組織の影響力を最大化する | |
Stephen M.R. Covey Rebecca R. Merrill
キングベアー出版 2008-11 おすすめ平均 |
4 Comments
めっちゃ気になりました!
早速注文してみます!
マックさん
是非読んでみてください!
マックさんの感想を楽しみにしてますね(^^
お久しぶりです。読んでいただいたのですね^^
本当に良く内容がまとまっていますね。
このブログを読んで知識が整理されました。
私はこの本は、最後の方の、社会や市場の信頼にまで言及しているあたりが、
深いなと感じました。
TAKUさんはいかがですか?
kazさん
本書をご紹介いただき、感謝しています!
実はこの前の読書会でも「必ず読んで欲しい一冊!」として紹介しました。
社会的信頼の箇所で私が真っ先に思い浮かべたのはワタミでした。
「日本の農業を救いたい」「日本の食を救いたい」
「日本の教育を救いたい」「日本の介護を救いたい」
このように事業が社会的貢献と密接に結びついていると、
確かに応援したくなります。
私は既に物質的豊かさのみで人が幸せになれる時代は過ぎたと思っていて、
今後は精神的豊かさが、より幸福感のウェイトを占めるのではないかと思います。
そこで、企業の理念や社会貢献といった要素がますます評価され、
選ばれる基準になるのではないかと。
また、逆に今度は企業のみならず、個人レベルでも
「自分の行動がどう社会に貢献しているのか」という要素が、
お金やモノだけでは満たされなくなった自身のモチベーションを高めるためにも、
そして自身の幸福のためにも必要になってくるのではないかと思います。
確かに本書はいろいろ考えさせられる、深みのある一冊ですよね。
なんだか、今度本書について一緒にお話したくなりました(笑)