スティーブ・レヴィさんの著書、「iPodは何を変えたのか」を今読んでいる。
とりあえず半分ほど読み終えたので、少しまとめておこうと思う。
以前読んだ「スティーブ・ジョブズ-偶像復活(4月11日の記事参照http://d.hatena.ne.jp/lemoned-icecream/20080411)」ではスティーブ・ジョブズの生い立ちから現在までを幅広くカバーしていたのに対し、本書はiPodにフォーカスを当てているため、iPodに関してはより突っ込んだ中身になっていた。
今回はその中の、「オリジン(起源)」という部分から、iPodの開発過程を扱いたい。
iPodはプロジェクトにゴーサインが出た段階で、発売日が決定された。
この種の製品開発には最低でも一年はかかるというのが業界の常識なのだが、彼らはそれを6ヶ月で作ろうと決めるのだ。
しかも、それまでアップルが製造してきたものとはまったくジャンルが異なる、画期的な製品を、だ。
家電製品が最も売れる十二月のクリスマスシーズンに間に合わせるため、彼らの戦いが始まった。
結局一週間遅れたものの、ほぼ予定通りの十月二十三日にiPodは発表されるのだが、不可能とも思えたプロジェクトを可能にしてしまったその過程は、どのようなものだったのか。
ここでジョブズと開発チームの日々のやり取りがどのようなものだったのかを連想させるいくつかのエピソードを引用したい。
ポータルプレイヤーの開発エンジニア、ベン・クナウスは、後にワイアード・ニュースに「彼らが会議を開くと、そこでジョブズが『曲を選択するまでに三回以上もボタンを押させるな!』って怒鳴りまくるんだ」と語っている。
「で、僕らに指令がやってくる。『ジョブズは音が小さすぎる、音質にシャープさが足りない、メニューが表示されるのが遅すぎると言っている』ってね。
ジョブズはそういう風に、言わなきゃいけないと思ったことを毎日コメントしてたよ。」
一方アップルの社員たちは、そんなジョブズと四六時中やりとりをしなければならなかった。
彼は試作品を取り上げて、ここがいい、あそこが気に食わないといい、あらゆる相手に威圧的な質問を浴びせかけた―君はこの開発プロジェクトで、いったいどんな貢献をしてるんだ?
ジョブズの意見は、ときとして従業員を仰天させる。
あるデザイナーが、電源を入れたり切ったりする電源ボタンは当然必要ですよね、と言ったところ、彼は一言「いらないよ」と答えた。
彼がこういえば、それが最終決定だ。
なるほど、ジョブズが開発チームに連日のように注文をぶつけていたのがわかる。
時には煙たがる社員もいるんじゃないかと思うくらい、そのやり取りは穏やかには見えない。
しかも、ジョブズが一言言えばそれが最終決定になるような開発環境で、従業員たちに不満はたまらないのだろうか?
ましてや、ボトムアップなしで本当に「パーフェクト」と形容されるような製品が生み出せるのだろうか?
答はノーだろう。
次のエピソードを見ればわかると思う。
ジョブズの考えでは、必要なボタンは、ホイールの周辺に配した「進む(次へ)」「戻る(前へ)」「ポーズ(一時停止)」ボタンの三つだけだった(多大な努力の果てに、開発チームはジョブズに、リスト階層をたどるための「メニュー」ボタンを追加することをどうにか認めさせた)。
決してジョブズの意見ですべてが決まったわけではないのだ。
お互いの主張を徹底的にぶつけ合う、本物のコラボレーションがあったのだ。
コラボレーションについては以前紹介した著書、「組織変革のビジョン(4月16日の記事参照http://d.hatena.ne.jp/lemoned-icecream/20080416)」で以下のような記述があった。
コラボレーションとは、違った考え方、違ったアイデア、違ったイメージ、違った発想法の出会いと言える。
その個性の出会いをなんとか丸くおさめてしまおうとするのではなく、お互いの個性をぶつけあい、火花を散らす。
そうしたときに、イノベーション(変革)やエボリューション(進化)が起こる。
まさに火花を散らした結果、iPodという大発明が生まれたのだ。
ジョブズの細部に対する偏執狂的なこだわりと情け容赦のない意思疎通のスタイルが、競合製品をあらゆる面で上回る製品を開発する原動力になっていたことは、著者も述べている。
また、この意思疎通にチーム全体がついてこれたのは、開発者自身がiPodに魅了されていたことが大きかったのだと思う。
アップルの開発チームの面々はみな熱烈な音楽好きで、彼らはiPodに打ち込むほどに、自分は今、自分自身が使ってみたくてたまらない背品を作っているのだという誇りと喜びを噛み締めていた。
ジェフ・ロビンは「メンバーはみんな、この製品の開発にかかわれることに興奮していた。ある意味、これはみんな自身の夢を実現するプロジェクトだったんだ」と言う。
自分たちが心からほしいと思えるような製品を、妥協のない意思疎通で開発したからこそ、iPodはこれほどまでにユーザーから絶大な支持を得られたのではないか。
背景に多大な勤勉さがあったのは、言うまでもないだろう。
「iPodは何を変えたのか 後編」
http://d.hatena.ne.jp/lemoned-icecream/20080423/1208933135