稲盛和夫さんの著書、「[実学・経営問答]人を生かす」を読んだ。
本書は著者の考える、経営者のあるべき姿、やるべきことを問答形式で語ったものだ。
本書を読んでまず気づくのは、経営者として人を生かすにおいて、やはり会社の経営理念や哲学、そして会社の目的・存在意義というのは大変重要だということだ。
資金力があり、いくら優秀な人材を集めたとしても、その企業の理念や哲学が明確でなく、従業員のベクトルがそろっていなければ、組織としての力は発揮することができないのです。
(中略)
経営理念や経営哲学が大義名分にもとづいたものであると同時に、従業員の幸福を追求する、社会の発展に貢献するといった目的を示せば、従業員は心から仕事に打ち込んでくれるようになるはずです。
(中略)
経営理念や経営哲学は、その企業の風土や文化をつくり出します。その理念にもとづいて働くことが、会社にとっても、従業員の人生にとってもすばらしいことだという、そのような企業文化をつくることができれば、会社は飛躍的に伸びていくことができるのです。
しかし、理念や社風だけが先行しても意味がないのである。
トップが現場へ行き、厳しく指導することなく、理念や社風だけが先行しても意味がないのです。トップが現場で率先垂範し、一生懸命働くからこそ、伸びる社風が生まれるのです。
理念を掲げてもそれが現場に浸透しなければ意味がなく、そのためにはトップである経営者が説いて回らなければならない。
しかし、現場も知らないトップが理念を振りかざしたところで、末端の社員は「現場も知らないくせに」と思ってしまうものなのだ。
トップ自身が仕事に精通してはじめて、利益への厳しい追及も効果を発揮する。
そうやってトップが現場へ行き、厳しく指導することが、理念や社風を実現するには必要なようだ。
そして、次に気づくのが経営者としてのあるべき姿だ。
経営者たるもの、人間性を磨き続けなければならないようだ。
社長は最終結論を出さなくてはなりません。その決断をするときに何を持って決めるかというと、それは心の中の座標軸なのです。心の中に座標軸を持ち、それと照らし合わせて、これはいい、これは悪いと決めるのです。そのため、しっかりとした座標軸をつくることが第一番になるわけです。
座標軸はその人が持っている価値判断の基準です。
(中略)
価値判断というのは、実は人格を投影したものなのです。その人が見栄っ張りだった場合には見栄っ張りの方向へ、怖がりだと怖がりの方向へものごとを決めてしまう。石橋を叩いても渡らないという、非常に慎重な人もいれば、石橋を叩かずに渡る人もいる。まさに、価値判断はその人の人柄によるのです。
(中略)
あなたの人格を立派なものに変えていかなければなりません。それは、正しい判断をするために、人間をつくっていかなければならないということです。
経営を行う以上、様々な場面で意思決定を行う必要が出てくる。
しかしそのとき、何が正しくて、何が間違った判断なのかは、決して知ることができない。
様々な情報を集めて、判断の精度をあげることはできるがしかし、100%確実には決してならない。
最後の判断軸となるのは、その人の価値観、つまり、何を最も大事にするのかだ。
だからこそ人間性を磨くことが正しい意思決定を行ううえで大変重要なのだ。
また、人間性というのは社員を生かす上でも大変重要だ。
経営者の行う意思決定は社員にとって素直に喜べるものばかりではなく、時には反感を買うような処置を行わなければならないときもあるだろう。
そういうときに社員の気持ちを理解し、不満に共感した上で、それでもこれは必要な処置なのだと心を砕いて説明し、納得してもらえるようでなければ、人はついてこない。
経営者たるもの、業務に精通すると共に、人としても尊敬を集めるようでなければならないのだということを、改めて考えさせられた一冊でした。
[実学・経営問答]人を生かす | |
稲盛 和夫
日本経済新聞出版社 2008-07-15 おすすめ平均 |