Malcolm Gladwellの『Outliers: The Story of Success』を読みました。
本書は
●『急に売れ始めるにはワケがある』
●『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
で有名な著者の、注目の新刊です。
内容の衝撃度、影響力ともに間違いなく今月の必読度No.1です。
アメリカには「self made man」(自分の力で成功をおさめた人)を称賛する文化があります。
不利な立場にありながらも、自らの才能や努力によってそれを克服して成功をおさめた人に拍手を送り、生まれや育ちに関係なく、誰にでも等しくチャンスは与えられているのだと言う世界観を育んでいます。
本書はそのような考え方を粉々にしてくれる一冊です。
What is the question we always ask about the successful? We want to know what they’re like―what kind of personalities they have, or how intelligent they are, or what kind of lifestyles they have, or what special talents they might have been born with. And we assume that it is those personal qualities that explain how that individual reached the top.
●特有のパーソナリティ
●知性
●ライフスタイル
●持って生まれた特別な才能
私たちはいわゆる「成功者」を見るとき、彼らが成功をおさめた理由を上記のような「その人本人に内在する要素」に求めたがります。
しかし、この認識は完全な間違いなのです。
In Outliers, I want to convince you that these kinds of personal explanations of success don’t work. People don’t rise from nothing. We do owe something to parentage and patronage.
(中略)
It makes a difference where and when we grew up.
(中略)
It is only by asking where they are from that we can unravel the logic behind who succeeds and who doesn’t.
人は自分自身に内在する要素によってのみ成功するのではなく、生まれや育ちが実は密接につながっていたのです。
本書ではその証拠となる事例がいくつか紹介されているのですが、そのうちの2つを紹介したいと思います。
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● カナダでホッケー選手になるには、1月~3月に生まれなければならない
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カナダではホッケーが盛んで、幼稚園に入る前からプレーし始める子もいるくらいです。
そこでは欧州サッカークラブのユース組織のように子どもたちは幼い頃からふるいにかけられ、上手な子どもは同年代の中でも上の階級のリーグへとスカウトされ、10代半ばくらいでその中のベスト中のベストプレイヤーがMajor Junior Aというエリートリーグへと進むことが許されます。
そしてなんと、このエリート集団のどの年代のグループをとってみても、
●40%の選手が1月~3月生まれ
●30%の選手が4月~6月生まれ
●20%の選手が7月~9月生まれ
●10%の選手が10月~12月生まれ
だったのだそうです。
繰り返しますが、「どの年代のグループ」でも1月~3月生まれの選手は全体の40%をも構成していて、逆に10~12月生まれの選手は全体の10%しかいないのです。
このからくりは、カナダホッケーの各年代別適性検査が「1月1日」を区切りに行われることにあります。
つまり、例えば同じ6歳でも、1月1日生まれの子どもと12月31日生まれの子どもでは、ほぼ丸1年の差があるのです。
まだ10台にも満たない子どもたちにとって、この差は特に体格や運動能力にでることになります。
当然体格や運動能力に優れた「1月~3月」に生まれた子どもたちのほうが、「10月~12月」に生まれた子どもたちよりも各年代において優れたパフォーマンスを見せることになります。
それはスカウトの目にも留まり、1月~3月生まれの子どもたちは
●よりレベルの高いリーグへと移ることが許され
●そこでより優れたコーチングを受けることができ
●よりレベルの高いゲームでプレーする機会を与えられ
結果的に差は大きくなる一方なのです。
もちろんプロホッケー選手となるような人たちは優れた才能の持ち主だったのですが、彼らがプロになれた要因はそれだけではなかったのです。
自らつかんだわけでも生み出したわけでもない、「1月~3月に生まれた」という特別な機会に恵まれていたということが、非常に大きな要因となったのです。
「10月~12月に生まれた時点で、カナダでホッケー選手にはなれない(もしくはハンディキャップを背負っている)」のです。
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● 10000時間の機会
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どの分野においても、そこでワールドクラスと呼ばれるレベルに到達するには10000時間の学習・練習が必要である、という定説があり、実際にそれ以下の時間でそのレベルにまで到達したケースはないようです。
そして、The Beatlesも、Sun Microsystemsの創業者Bill Joyも、MicrosoftのBill Gatesも、AppleのSteve Jobsも、「特別な10000時間」を与えられた人たちだったのです。
The Beatlesはアメリカでのデビュー前に、1年間ハンブルグのクラブを渡り歩いて毎日のように何時間もの演奏をする機会を与えられました。
Bill JoyもBill GatesもSteve Jobsも、パソコン釈明期以前の、コンピュータがまだ非常に珍しいものだった時代に、毎日のようにコンピュータに触れることができる環境を
「偶然×偶然×偶然×偶然×偶然×偶然」
とでも表現できそうな奇跡のような偶然の連鎖を経て与えられました。
ほんの一握りの人しかコンピュータに触ることができなかった時代に、毎日のようにプログラムを書いたりコンピュータをいじったりするという「幸運な10000時間」を与えられるということが、どれだけのアドバンテージになるのか。
それはその後の歴史が証明しています。
また、様々な要因を組み合わせるとパソコン釈明期において完璧なアドバンテージとなるには1955年生まれであることが必要なのだそうです。
上記の3人を見てみると、
●Bill Joy 1954年11月8日
●Bill Gates 1955年10月28日
●Steve Jobs 1955年2月24日
と、二人は完璧な誕生日に生まれています。
そのほかにもこのような人たちがいます。
●Steve Ballmer(Microsoft) 1956年3月24日
●Eric Schmidt(Google) 1955年4月27日
Their success was not just of their own making. It was a product of the world in which they grew up.
彼らがここまで成功をおさめることができたのは、彼ら自身の力だけではなく、彼らが生まれ育った世界の恩威を多大に受けていたことが良く分かります。
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上記以外にも
●なぜ日本や中国の子どもたちはアメリカの子どもたちよりも数学が得意なのか
●率直なコミュニケーション文化圏からきたパイロット×曖昧なコミュニケーション文化圏からきたパイロット=飛行機事故
●IQの高さが影響を与えるのは120くらいまでで、それ以上のIQは現実世界での優位にはつながらない
などなど、興味深い事例が満載です。
これらからわかることは、「成功」とは特別な機会を与えられた人が、それをつかむだけの能力・才能やマインドを持っていて初めて生まれるのだということです。
ある人が自身で下した決断や努力のみによって生まれるものではないのです。
Outliers are those who have been given opportunities―and who have had the strength and presence of mind to seize them.
私たちは自分のキャリアを考えるとき、自分の好きなことや得意なことのみではなく、「自分に与えられた機会」とは何か、そのポテンシャルを最大限に活かすにはどうしたらいいのか、ということを同じくらい考えなければならなかったのです。
「生まれや育ちに関係なく、意思と努力さえあればなんでも好きなものになることができる」という神話は、幻想だったのです。
読むだけで、自分自身、そして自身のキャリアの認識が変わってしまう一冊です。
本書の知識をどう活かすかで、今後のキャリアの選択が大きく変わる可能性もあります。
非常にお勧めなので、「洋書はちょっと…」という方も是非読んでみてください。