11月18日〜11月25日まで、新婚旅行でイタリアに行ってました。海外サッカーファンとしては、現地での生観戦を体験しないわけには行きません。セリエAのユベントスVSパレルモと、チャンピオンズリーグのミランVSバルセロナ(プレミアムチケット!)の2試合を見てきたのですが、事前準備として以下の本を読んで挑みました。
サッカー バルセロナ戦術アナライズ 最強チームのセオリーを読み解く | |
西部謙司
カンゼン 2011-06-11 |
1.バルセロナはロジックで勝ち星を積み上げている
日本のビジネス環境では相変わらず「気合いだ!」「根性だ!」「意識が足りない!」という精神論や、「量をこなせ!」とひたすら唱える人がいて驚きます。それでうまくいくのであれば構いませんが、サッカーの世界を見れば、「気合!」「根性!」「意識!」「量!」ばかりを追い求めているチームは間違いなく敗者です。現在の世界最高のクラブチームと言われるバルセロナは、どうすれば勝てるのかをとことんロジカルに突き詰め、徹底して質を高める努力をしていることが、本書からよく分かります。
2.実はバルセロナは守備から入る
バルセロナのサッカーはアタッキングサッカーですが、攻撃ばかりを重視して守備はおろそかなのだと勘違いされることもあります。しかし実際には、バルセロナの戦術ははいかに守備をするかから始まるのです。ただし、それはディフェンスラインを引いて守るのではなく、素早い攻守の切り換えからプレッシングに転じ、相手のボールを素早く回収してさらに攻撃するための戦術です。
現在サッカーでは、多くのチームが4バックを使っていますが、バルセロナは両サイドのウィング2人を使い、相手ディフェンダー4人を足止めするのです。いかに2人で4人をマークするのかというと、相手の両サイドバックに厳しくマークしてしまうのです。両サイドバックにパスが出来ないとなると、ボールを持った相手センターバックは前にパスをするか、前にドリブルするかしか選択肢がなくなります。
しかしバルセロナは2人のウィングで4人のディフェンダーを足止めしているわけですから、その後ろには相手のフィールドプレイヤーが6人しかいないのに対して、バルセロナは2人多い8人がいることになります。こうして2人の数的優位を作り、たくさん走らなくても効率よく相手のボールを奪える状況をバルセロナはつくっています。
3.常に数的優位をつくるバルセロナ
攻撃の場面でも、バルセロナは動きの量ではなく、質で、精神論ではなくロジカルな戦術で、数的優位な状況を生み出しています。全てをここで紹介することは出来ませんが、1つだけあげると、バルセロナはセンターフォワード(CF)を使わないのです。今のチームであればメッシがセンターフォワードのポジションにいますが、頻繁に中盤まで引いてきて組み立てに加わるメッシは、ペナルティーエリア内で構える従来のセンターフォワードとはかなり異質な動きをします。
メッシが中盤まで引いてくるとどうなるか。まず、本来ならセンターフォワードをマークすべき相手のセンターバック2人は、メッシが中盤まで引いてしまうため、マークすべき選手がいない手持ち無沙汰の状態になってしまいます。その分数的優位な状況を作れるバルセロナは、ショートパスをつなぎながら前進してきます。
「ショートパスをつなぐ→後方の押し上げが利く→ボールを失ったときにもコンパクトになっている→前方からのプレスによって前向きの守備ができる→ボールの回収力が高まる」こうしてバルセロナは多くの時間を攻撃に費やすことが出来ているわけです。では、相手のセンターバックがメッシをマークするために中盤まで前進してきたらどうなるか?手薄になったディフェンスラインのスペースを、シャビやイニエスタといった中盤の選手の飛び出しや、ウィングのカットインで攻略され、ピンチを招くことになります。
バルセロナの強みは、こうした戦術的な動きを全員が理解し、かつ下部組織の時から徹底して叩き込まれているため、どの選手が出場してもチームとして同じ動きが出来るところにあります。
まとめ
さて実際の試合は2−3でバルセロナが勝利をおさめました。試合を見ていて感じたのは、ミランの得点シーンが意外性によるものであったのに対し、バルセロナの得点シーンはセオリー通り、言い換えれば想定内のプレーでいとも簡単にチャンスを作っていたということです。例えばミランのボアテングが試合を振り出しに戻したプレーは、見ていて思わず叫んでしまう迫力のあるプレーでしたが、それに対してバルセロナの得点シーンは冷静なもので、ある意味淡々とした作業のようにも見えました。
クライフやレシャックが重視するのは、動きの量ではなく、質である。質には徹底してこだわる。そして、質の高い動きをチーム全体でできていれば、結果的にそれほど量は必要ないと彼らは考えている。少なくとも、対戦相手より多く走る必要はない。質が悪ければ量で補うほかないかもしれないが、そのときに彼らが第一に考えるのは質の改善ということになる。量を増やせ、という発想はまず出てこない。
意外性やひらめきに頼るわけでもなく、気合いや根性を見せるわけでもなく、たくさん走るわけでもなく、あくまでも淡々とした作業をこなしているように見えるのに、それでも当たり前のように勝利を収めつづけてしまう。そこに本当の強さを感じずにはいられませんでした。