最近読んだ本で大いに共感し、実践を試みているのが、『Whyから始めよ!』だ。
本書によると、人間の行動に影響を及ぼす方法は、ふたつしかない。操作するか、インスパイアするか、である。操作にはいろいろな方法がある。価格を下げたり、プロモーションを行ったり、恐怖心を煽ったり、周囲と同じ行動を取るよう仲間集団から圧力をかけたり、上昇志向のメッセージを送ったり・・・。
操作を行うことによって、人は顧客や仲間に対して、自分が望むような行動をしてくれるよう仕向ける。これには一定の効果があるし、ビジネスを成功させることにも役立つ。しかし、操作にはデメリットもある。相手の忠誠心を育てることができないため、繰り返し刺激を与え続けなければ効果が薄れてしまうのだ。つまり、操作には短期的な効果しかないため、何度も繰り返すうちにお金も手間もかかり、高くつくのである。
これはマネージャーからしてみれば、何度も刺激を与え続けなければ、部下が望む行動をしてくれないということである。製品であれば、何度も広告を打ち続けなければ、消費者が製品に興味を示さないということである。これでは効率が悪い。何か新しい事業やサービスを生み出そうというときに必要なのは、指示を与え続けないと動かない社員ではなく、共通のゴールに向かって自発的に動く仲間で構成されたチームである。イノベーションを起こした製品は、何度も広告を打ったことではなく、熱狂的なファンによる口コミで成功したはずだ。
こうしたチームや製品を作ろうと思ったら、操作ではなく、相手をインスパイアするしかない。
インスパイアするには、Whyから始めることだ
スティーブ・ジョブズやマーティン・ルーサー・キング・ジュニアのように、世の中には人々をインスパイアし、自発的な行動に駆り立て、熱狂的なファンを生みだすリーダーがいる。彼らは何が違うかというと、考え方の順番が違う。彼らは「Why」から始めているのである。
普通の人や企業は、儲けるために何を行うか、何を売るかという「What」から考える。そして、他社と差別化するための手段として、「How」を考える。そして、最後に取ってつけたような理念やミッションをつける(「Why」)。こうした人や企業が勘違いしているのは、人はWhatを買うわけではなく、Whyを買っているということだ。
What、How、Whyの順番で考えると、企業のゴールはモノを売って儲けることになる。リーダーからのメッセージも「今月も目標数字を達成せよ」になり、他社との競争に勝つための機能追加や値下げ戦略に現場は躍起になる。自社のサービスを受けることで顧客がどうなるのか、世の中が良くなるのかというWhyは二の次になる。こういう企業に、顧客の心は動かせない。
周囲をインスパイアする企業やリーダーには、明確なWhyがある。そして、それを実現するためのHowを考え、最終的な製品であるWhatを生みだす。彼らにとってWhatは、自らの信念が具現化されたものである。
例えばAppleのジョブズとウォズニアックが始めてパーソナルコンピュータを作ったとき、彼らは個人ひとりひとりが発言権を持つ世界を想像した。旧態依然とした考えや現状を維持出来ればいいという姿勢に対してはっきりと意見を述べられる時代を夢見た。そして、コンピュータというテクノロジーを一人ひとりが使えるようにすることで、一つの会社に匹敵する力を個人に与え、革命を実現しようとした。だから彼らは、誰もがコンピューターのテクノロジーを使えるよう、常にシンプルを追求している。
Appleに熱狂的なファンが多い理由はここにある。Appleの信念は明晰であり、かつ彼らは行動の全てでそれを立証している。Why、How、Whatに一貫性がある。だからこそ人々はAppleを本物だと見なすし、忠誠心をもった熱狂的なファンが生まれる。彼らに取って、他社の製品のほうが値段が安いとか、バッテリーが長持ちするとかいったことは、些細なことでしかない。
自らの志に共鳴する人との仕事に集中する
「普及の法則」によれば、全体の多数派に当たるEarly Majorityは、他の人が最初に試してくれないと、購入する気にならない人たちである。この層に価格を下げたり、サービスに付加価値をつけたりという操作を行っても、忠誠心を持つことはない。
それよりも、自社の理念や志に共感してくれるInnovatorやEarly Adapterを見つけたほうがいい。彼らは自らが価値を認めたことに対しては、喜んで支持し、多少の不便には耐え、自ら口コミで評判を広げてくれる。なぜならば、理念に共鳴した製品やサービスを取り入れることで、彼らは彼ら自身の人生の目的や大義や信条を、外の世界に示したいからだ。こうした人たちの支持を得られれば、他の人(Early Majority)の支持もついてくる可能性がある。
共通のゴールに向かって自発的に動く仲間と仕事をしたり、熱狂的なファンになってくれる顧客と仕事をしたいのであれば、自社が持っているものを単純に欲しがる相手との取引成立にビジネスの目標を置くのではなく、自社の理念や信条を信じてくれる仲間や顧客とのビジネスに集中する必要がある。
WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う | |
サイモン・シネック 栗木 さつき
日本経済新聞出版社 2012-01-25 |