石渡嶺司さんの著書、「転職は1億円損をする」を読んだ。
本書は早期退職を安易に考える最近の風潮にまったをかけたものです。
特にこれから就職を迎える学生や、既に就職してなんとなく転職しようなどと考えてしまっている方は必読だと思います。
本書で言う「転職は1億円の損」というのは、1社に定年まで勤めた場合の生涯年収と、途中で転職を行った場合の生涯年収との差を比較したものです。
その計算過程は細かく解説されていますが、そもそもの「1社に定年まで勤める」という前提に、既に終身雇用制度と年功序列制度が崩壊したと言われ、また、企業の寿命は30年を言われる現在、無理があると思います。
なので「1億円の損」という数字を額面どおり受け取ることはできないと私は思いますが、しかし、
●「転職すれば自分に合う仕事が見つかるんじゃないか」
●「転職すれば年収がアップする」
などと安易に考えた人が、人材紹介会社にうまくのせられた結果、自分が望んだものとは全く異なる悲惨なキャリアに陥っていることは事実だと思います。
まず、転職すれば年収があがるというのは間違いです。
もちろん能力のある人がより自分の力を発揮できる環境に移ったりした場合は異なります。
しかし賃金が能力に対して払われるものである以上、ろくにスキルの身についていない若者が転職してキャリアアップできるなどというのは幻想に過ぎません。
こうした当たり前のことも見抜けずに人材紹介会社に上手にあおられている若者も若者ですが、あおっている人材会社はもっとたちが悪いのではないでしょうか。
転職ビジネスは仕入れが出来ません。
あくまで転職希望者が連絡しない限りは、仕入れが出来ないのです。
だから転職をあおるのです。
本当は転職をした結果多くの人が損をしているという事実を知っていながら、
●「転職すれば年収があがる」
●「自分に合った環境が見つかる」
●「若いうちは冒険したほうがいい」
などといってくるわけです。
これで転職ビジネスは非常に儲かることになります。
2006年度の段階で転職市場は既に1000億円規模になったようです。
しかし、転職ビジネス会社が大きくなるほど早期退職者が増え、日本企業の活力は失われていきます。
新卒で何もできない若者に研修費等さんざん投資した挙句、投資を回収する前にやめられてしまうのだから当たり前です。
もちろん転職ビジネスだけにすべての責任があるわけではないでしょう。
しかし、自らの利益をあげるために若者のキャリアをいたずらに傷つけ、企業の活力を奪っている彼らのやっていることは「悪」だと私は思います。
結局転職に失敗した若者は、また転職することになります。
しかし、ろくに勤務せずにすぐに辞めてしまう様な人を、企業は採用したいとは思いません。
また、無用な転職はキャリアを傷つけるばかりではなく、時間の浪費にもなります。
なので私は学生は「新卒の3割が3年以内に辞める」というデータをもっと真剣に受け止めたほうがいいと思います。
「面接の必勝法」だとか、「内定ゲット法」のようなものは読まなくていいので、それよりはいい企業と悪い企業を見抜く方法や、自分の特性はどういうところにあり、将来何をしたいのかなどを理解したほうがいいでしょう。
一番いいのは本を多く読み、いろいろな人の生き方のロールモデルに触れることだと思いますが、いくつか特にお勧めできる本があると思います。
ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
作者: 梅田望夫
出版社/メーカー: 筑摩書房
発売日: 2007/11/06
メディア: 新書
「ウェブ時代をゆく」梅田望夫
ウェブにより新たな産業革命を迎えたこの時代をどうやって生きていけばいいのか、そのロールモデルを示した非常に参考になる一冊です。
辞めない採用、即戦力の育成で儲かる会社になる!
作者: 小山昇
出版社/メーカー: あさ出版
発売日: 2008/08/19
メディア: 単行本(ソフトカバー)
「辞めない採用、即戦力の育成で儲かる会社になる! 」小山昇
中小企業向けに書かれた採用ノウハウ本ですが、逆に学生が読むことで「採用のミスマッチ」という最大の失敗を防ぐために学生が何を見極めなければならないのか、理解できる一冊です。
ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか
作者: ケン・ブランチャード, ジェシー・ストーナー, 田辺希久子
出版社/メーカー: ダイヤモンド社
発売日: 2004/01/08
メディア: 単行本(ソフトカバー)
「ザ・ビジョン」ケン・ブランチャード
「未来のイメージ」「目的」「価値観」の明確化、共有、実践がなされている組織とそうでない組織とでは、パワーが全く異なるということが深く理解できる一冊です。
さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
作者: マーカスバッキンガム, ドナルド・O.クリフトン, 田口俊樹
出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
発売日: 2001/12/01
メディア: 単行本
「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす」マーカス・バッキンガム
自分の強みの土台となる資質のうち、自分が最も強く持っている5つを「Strengths Finder」という診断テストによって教えてくれる一冊です。
自分がどういう方面で力を発揮できるのかを考える上で、非常に役に立つと思います。
余談ですが、「転職すればもっと自分に合った環境が見つかるのではないか」と考えている人も、まずはしっかりと自分に合う環境とはどういう環境なのか、理解しなければならないでしょう。
そのためにはまず自分の特性を知ることだと思います。
まだ受けたことのない人も、既に一度受けたという人も、「Strengths Finder」を受けてみてはいかがでしょうか。
hito-kanさんのように、6年後に受けてみたら自分の思考・行動パターンに変化が見られ、いくつかの資質が変化していたということがあるようです。
※hito-kanさんの記事はこちら
参考リンク:
転職は1億円損をする – to-rainbowsのビジネス書日記
転職は1億円損をする (角川oneテーマ21) | |
石渡 嶺司
角川グループパブリッシング 2008-10-10 おすすめ平均 |