自分の仕事をつくる | |
西村 佳哲
晶文社 2003-10-01 おすすめ平均 |
『ビジョンと情熱』のマックさんが紹介されていた、西村佳哲さんの『自分の仕事をつくる』を読みました。
本書を読んで、世の中には2種類の人間がいるなと、私は思いました。
それは、
●仕事に自分を合わせる人
と、
●自分の方に仕事を合わせる人
です。
「仕事に自分を合わせる人」の典型は、サラリーマンでしょう。
業務内容や求められる能力に応じて、自分自身や自分の働き方をカスタイマイズすることが求められます。
多くの人の場合、このとき中心にあるのは「自分が何をしたいか」「自分がどう働きたいか」よりも、「仕事側が何を求めているか」「仕事側がどのような働き方を求めているか」なのではないでしょうか。
対して「自分の方に仕事を合わせる人」は、中心はあくまで「自分は何をしたいか」「自分はどう働きたいか」です。
本書にはそのような働き方のロールモデルと呼べる人々が多数登場するのですが、彼らの「働き方」と「生き方」が一致した”仕事観”に触れていると、いつかは自分も「自分の仕事をもとう」という気にさせられます。
「自分の仕事」を見つけるヒントが満載の一冊で、将来起業や独立を考えている方には特にオススメです。
以下、内容に続きます。
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● 解像度を高める
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本人の「解像度」の高さが、その人のアウトプットの質を決める。
「解像度」、これは観察力・分析力と言い換えてもいいかもしれません。
仕事の質の差は、細部に気づける能力にあると言うことでしょうか。
自分が出している音を聴き取る力がない限り、その先への進歩はない。イメージと現実のギャップが感じられるからこそ悩めるし、成長することも出来るが、もし「自分は十分にいい音が出せている」と感じたら、そこがその人の音楽の上限となる。だから、常に聞く能力を磨き続けることが必要であり、齢を重ねることによる進化もあるのだ、と話してくれた。
これはピアニストの方の話ですが、同じように私たちも、自分の仕事に関して理想のイメージと現実とのギャップに気づき、いかに細かい部分にまでこだわりぬけるかが、アウトプットの質や成長に大きく影響を与えるのでしょうね。
iPodも徹底した顧客思考の元に生まれたといわれますが、あれもまさしくユーザー体験を細部まで徹底的にこだわりぬいた、芸術作品といえます。
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● 世界の有り様
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優れた技術者は、技術そのものでなく、その先にかならず人間あるいは世界の有り様を見据えている。
これは製品やサービスの背景にある世界観・グランドデザインと言い換えられますね。
自分たちが生み出す製品やサービスを通して、世の中に何を表現したいのか。
現代社会では、先進国の物質的豊かさはほぼ飽和状態で、以前のように製品を作れば作るほど売れると言う時代ではなくなりました。
ただ製品を作るだけでは、既に物質的にある程度豊かになってしまった消費者には見向きもされなくなるのは、当然です。
今後は、「製品・サービスの背景にあるストーリー」が重要になるでしょう。
その製品やサービスを購入することで、その背景にあるストーリーの一部となりたい、体験者となりたい、そのような消費者の「内面的豊かさ」を満たすミッション・ストーリーが込められた仕事には、ブランドが生まれます。
ここは是非、先日紹介した『小さな会社のブランド戦略』とあわせて読んでおきたい部分ですね。
※関連記事:http://d.hatena.ne.jp/lemoned-icecream/20090309/1236599278
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● 要素還元
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魅力的な物事に共通するなんらかの法則を見出そうとする時、彼がとる手法は「好きだけど理由がわからないものを、いくつか並べてみる」というもの。慶応大学の講義ではこの手法を、要素還元という名前で紹介していた。
これは電通のCMプランナーとして無数のヒットCM作品を手がけた佐藤雅彦さんに関する記述なのですが、私は幸運なことに、まさにこの講義をリアルタイムで大学で受講していました。
同じように惹かれるものを並べ、そこにどんな要素が含まれているのか、自分の中の何が感応しているのかを丁寧に探ってゆく作業だ。
佐藤雅彦さんはこれをCMでやりましたが、同じことを読書でやったのが梅田望夫さんの「ロールモデル思考法」ですね。
読書を通じて様々な人の生き方に触れ、その中からなんとなく自分がいいと感じたものを集めて、何故そう感じたのかを分析してみる。
実は私の読書生活は、去年の4月7日に『ウェブ時代をゆく』を読んでこの「ロールモデル思考法」を知ってから始まりました。
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● 自分がほしいものを作る
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自分のための道具を自分でつくり、それを欲する人が増えることで次第にマーケットが育ち、仕事として成立する。最初は創業者の手の中に会った小さな仕事が、大きなビジネスに成長してゆくプロセスを辿った会社は少なくない。
彼らの仕事の価値は、彼ら自身の存在に深く根ざしている。
ガレージキットっていうのは、“自分が欲しいものをつくる”という、思想だと思うんですよ。
ビル・ゲイツも、アップルのスティーブ・ジョブズも、自分のコンピュータが欲しかったわけですよね。僕らの仕事も根は同じで、おのれの赴くままにです。つくりたい奴がつくったものは、ちゃんとわかるお客さんがいます。
自分が欲しいものをつくる、ここには2つのポイントがあるなと思いました。
●自分が欲しいものをつくるから、夢中になれる、好きになれる
●自分が欲しいものをつくるから、そこには誰かをひきつける「要素」が生まれ、それに共感した人が熱烈なファンになる
iPodの成功要因のひとつに、開発者たちが自分たちの欲しい音楽プレイヤーを作っていた、ということがよく挙げられます。
特に今は消費者の嗜好性が細分化されているので、下手に対象を広げて無難な製品を作るよりは、ある特定の人物に徹底してフォーカスした製品のほうが顧客がつきやすいのでしょう。
この「ある特定の人物」を誰にするかが問題なのですが、自分が欲しいものをつくる人は、ここの部分がまさに「自分自身」になっているわけです。
他人が何を求めているのかを想像するのよりも、自分が何を欲しがっているのかを知るほうが恐らく簡単です。
だからこそ、自分が欲しいものをつくったほうが、消費者の共感を得られやすいのかもしれませんね。
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