金井壽宏さんの著書、「組織変革のビジョン」を読んだ。
誤解のないように述べておくと、本書は組織変革やビジョンにまつわる「How to」本ではないし、そもそも「こうすれば組織変革は誰にでもできる」というような方法は存在しない。
気をつけるべき落とし穴や、必要な資質などはあれど、最終的にはどんな障害も乗り越えて「絶対にやりきる」という気概が問われるのだ。
何かを変革しようとすれば、それには抵抗が起こるものだ。
それに耐え、恐れを克服し、やり抜ける人にのみ、変革というものは起こせるのだろう。
そこを踏まえて読めば、本書は示唆にとんだ非常に優れた良著であると思う。
変革を起こそうとすれば、それには必ずリーダーとなるべき人が必要になる。
本書ではリーダーに必要な資質として、以下のようなリーダーシップ論を紹介している。
①energy 自らが元気
②enerize 周りを元気にする
③edge ずばっと決断し果敢にアクションを起こす
④execution とことんやり抜く
これらをすべて兼ね備えた人物として、私は真っ先にSteve Jobsを思い浮かべた。
Steveは自らがエネルギーの塊であると共に、そのエネルギーを部下たちにも伝え、心に火をつけてしまうパッションがあった。
こんなエピソードがある。
Steveがある会議にて自分のビジョンを語る際に、「海賊になろう」というフレーズを使ったそうだ。
Steveの素晴らしいスピーチに感動した部下たちの中には、オフィスの自分の机に海賊旗を掲げるものまで出たのだ。
いかにSteveが優秀なモチベーターであったかが伺える。
また、Steveには自分の直感、信念を絶対に曲げない頑固さと(それがトラブルの原因になることもあったが)、それをやり抜く抜群の行動力、それに加えて、周囲が思わず信じてしまうようなカリスマ性があった。
この4条件を考える上で非常に大切なキーワードとなるのが、魅力的なビジョンであると思う。
それを思い浮かべただけで熱くなれ、どんな困難でもねじふせる勇気が沸いてくるような魅力的なビジョンがなければ、仲間をモチベートすることはできないし、変革を進める上で現れる障害を乗り越えることはできないだろう。
Steve Jobsも自らのスピーチで、自分が創った会社を首になりながらも情熱を失わず再出発できたのは、自分のやっていたことを愛していたからだと語っている。
ビジョンの話をすると、大事なのはわかっているが忙しくてできないといったように、必ず言い訳が出てくる。
そんな時は、本書で紹介されている以下の言葉を思い出したい。
「忙しいから大きな絵が描けないのではなく、大きな絵が描けているから忙しくても大丈夫なのだ。」
未来のイメージが描けていなければ、目先の作業に没頭しながら先行きの見えなさに不安を覚えてしまう。
大きなビジョンが描けているからこそ、今自分がやっていることが必ずそこにつながっているのだという確信を持って前進していける。
著者の言うように、忙しいから絵が描けないのではなく、描けないから忙しいだけなのだ。
新しいアイデアを試すことを恐れていては発展はない。
新しいアイデアへの反対は、新しいアイデアが古い価値観を破壊するから起きてくる。
衝撃的なアイディア、会社を飛躍させるアイデアであればあるほど、反対は大きくなる。
あなたのプランやアイデアが本当に力のあるものであれば、とことんやり抜く元気も勇気も生まれてくるはずだし、反対意見を精力的に説得する気にもなれることもある。
魂を振るいあがらせるような大きなビジョンを描き、困難にあいながらもそこにたどり着こうと必死に舵をきって前進し続ける、そんなある種「海賊」のような生き方が、私たちの人生を色鮮やかで興奮に満ちたものにしてくれるのではないか。
組織変革のビジョン (光文社新書) | |
金井壽宏
光文社 2004-08-18 おすすめ平均 |