最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か | |
Peter M. Senge 守部 信之
徳間書店 1995-06 おすすめ平均 |
ピーター・M・センゲの『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』を読みました。
本書で紹介する方法やアイデアは、世界が個別の、互いに関係のない力で成り立っているという幻想を打破しようとするものだ。この幻想を捨て去ってはじめて、われわれは「ラーニング・オーガニゼーション」、すなわち“学習する組織”を構築することができる。それは人々がたゆみなく能力を伸ばし、心から望む結果を実現しうる組織、革新的で発展的な思考パターンが育まれる組織、共通の目標に向かって自由にはばたく組織、共同して学ぶ方法をたえず学び続ける組織である。
本書でセンゲ氏は、フォードやスローンやワトソンのような学習する人物が組織にひとりいるだけではもはや足りず、今後の企業はあらゆるレベルのスタッフの意欲と学習能力を生かすすべを見出さなければならないとしています。
そして、そうした組織には以下の5つの要素、
1.システム思考
2.自己マスタリー
3.メンタル・モデルの克服
4.共有ビジョンの構築
5.チーム学習
が不可欠であり、これらを合体させ、ラーニング・オーガニゼーションをイノベーションに変える方法を本書で説いています。
正直なところ、4月から読んできた270冊ほどの本の中で、本書はダントツで最も難解な一冊でした。
同時に、読み応えも相当なものでした。
特に印象に残った部分をかいつまんで紹介します。
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● 学習障害と思考様式
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★「職務イコール自分」なので、自分の行動が他の職務にどう作用するかを見ない。
★したがって問題が生じると、たちまちお互いに罪を着せあう。「敵」とみなされるのは他のポジションにある者、場合によっては顧客である。
★「積極姿勢」になって発注量を増やし、事態をいっそう悪化させる。
これは自分の職務という小さい領域の中だけで物事を考えてしまうと、その小さな領域の中での最適解が、システム全体には悪となりうることを説いているのですが、ここで登場する「ビール・ゲーム」が非常に面白いです。
自分がシステム全体に影響をおよびしうる個人であることを自覚し、システム全体を見据えて自分の行動をプロアクティブに考える「システム思考」「行動の構造的原因を見出す力」が必要だということは、覚えておこうと思います。
われわれは気づかぬ構造によって拘束されているのだ。だからこそ逆に、自分たちの活動の場となっている構造を把握できるようになれば、見えない力から解放され、その力を利用したり変えたりできる第一歩となるだろう。
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● 成長の限界
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定義/拡張(増大)プロセスは望み通りの結果を生むために機能を開始する。それは成功の連鎖反応を生むが、気づかぬうちに(平衡プロセスに見られる)副作用をも生じさせ、結局、成功のペースを落としてしまう。
経営原則/成長を無理強いせず、成長を制限している要因を取り除くこと。
これを読書にあてはめて考えてみたいと思います。
多読をしていると、毎日知識が増え、自分が成長しているのを実感し、ますます読書量を増やそうと考えるようになります(改善の様子が見てとれる初期段階では、同じ事をさらにつづけようとする)。
しかし、だんだん一冊の本から得られる学びが減っていることを感じ始め、成長のペースが鈍ってくるのを感じます。
そこでもっともっと読書のペースを上げようと、さらに努力を始めます。
しかし、成長のペースは鈍る一方で、努力のわりに読書があまり自身の成長や成果につながっていないことをますます痛感してしまい、結局はモチベーションまでも失ってしまいます。
ここで何が問題だったかというと、既に現状の多読は「成長限界」に達していて、それ以上いくらペースをあげてもまさに無駄な努力となっていたのです。
「成長限界」に達したとき、私たちはよりペースを上げて努力する「拡張循環」ではなく、システム全体において読書から得られる成長を制限している要素を特定し、それを変える・取り除くという「平衡循環」をしなければならないのです。
例えば、
●量に頼らず、自分の思考の幅をワンランク上げるような質の高い本を読んでみる
●本を読むだけでなく、知識・技能を磨く勉強をして、実践で活用する中で様々なフィードバックを得る
という具合に、ボトルネックを解除することで成長にレバレッジをかけることを考える必要があるのです。
組織も同様で、「成長限界」に達したときは、既存の手法でさらに努力するのではなく、現状のボトルネックとなっている要因を取り除くことが、より大きな成長・成果につながるのだと思います。
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●問題のすり替え
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根本問題自体は、不明瞭であったり対処に費用がかかりすぎたりして、立ち向かうのが困難だ。そこで人は問題を、前向きかつ簡単で非常に効率的に見える別の解決方法に「すり替え」てしまう。しかし残念ながら安易な「解決方法」によって改善されるのは症状だけで、その根底にある問題はてつかずのまま残される。症状が消えると、システムは根本的な問題の解決能力を失うため、問題はますます悪化する。
これをタバコやお酒で考えると、例えば仕事上でストレスを感じているときにそのストレスを生み出す根本要因を取り除こうとせずに、タバコやお酒に力に頼ってしまう人は結構いると思います。
こうすると一時的にストレスは発散でき、問題を隠蔽することができます。
しかし根本的に解決したわけではないので、また問題は再浮上し、再びタバコやお酒に頼るはめになります。
こうすると依存症に陥り、また従来の量ではたりなくなることから摂取量も増え、副作用によって再起不能になります。
組織も同様、表面的な解決策ばかりをとって根本問題を放置しておくと、しだいに依存症になり、ついには再起不能になってしまいかねないということですね。
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● 自己マスタリー
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ビジョン(望んでいること)と、今の現状のはっきりとした見取り図(望んでいることと比べた現在の地点)を並列に置けば、「クリエイティブ・テンション」とわれわれが呼ぶ創造的な緊張関係が生まれる。それは、この二つの活動を一致させるための力であり、解決を求める緊張関係から自然に生み出されるものだ。
強い目的意識がなく、内なる呼び声を持たないビジョンなどは、ただのグッドアイデアにすぎない
競争がすんだあと、そしてビジョンが自分のものとなった(あるいは、ならなかった)あと、自分をさらに引っ張ってくれるのは目的意識だ。それは、その人に新たなビジョンを作れとうながしてくれる。
ここの部分はケン・ブランチャードの「ザ・ビジョン」とあわせて読むと効果的だと思います。
ビジョンに「内なる呼び声」を持った強い目的意識があると、ビジョン(望んでいること)と現状の間にあるギャップを埋めようとする、強力な意欲・モチベーション・力が湧いてきます。
このギャップを埋めようとする力があるかないかというのは、組織の成長においても、個人の成長においても、非常にクリティカルなものだと私は思います。
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● 共有ビジョン
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共有ビジョンは個人のビジョンから生ずる。(中略)
それは各個人の一連の価値観、利害関係、野心に根ざすものである。
共有ビジョンを築くことに力を注ぐ組織は、個人のビジョンをつくり出すようメンバーをたえず励ます。もし自分自身のビジョンをもっていなければ、ほかのだれかのビジョンに「加入する」しかないからだ。その結果もたらあされるのは服従であって、コミットメントではない。
けれども、服従とコミットメントのあいだに雲泥の差があることは事実だ。もし人が単に従っているだけであれば、たとえそれが心からの服従であっても、彼らの生み出しえないエネルギーや情熱や興奮を、コミットした人はもたらす。コミットした人は「ゲームのルール」に基づくプレーはしない。ゲームに責任は持つが、もし、ゲームのルールがビジョン達成の障害になれば、ルールを変える方法を見つけるだろう。共通のビジョンに本当の意味でコミットした人々が集まれば、とてつもない力となる。彼らは、不可能に見えることを成し遂げることができるのだ。
これを例えば読書会にあてはめて考えてみると、
●ここに参加していれば成功したり、成長したり、いろいろとメリットがありそうだから参加する人(=服従)
●個人のビジョンがあり、そのために読書会をこのように活用していきたい、という読書会に対するビジョンを持って意見のいえる人(=コミット)
の2者では、確実に後者のほうが読書会に与えるエネルギー、情熱、興奮は大きいということですね。
幸い私たちの読書会”TRICKYY”には「Realize Ideal Challenge」「Stay, foolish」という共通の理念がありますが、「コミットメント」に関しては正直まだまだだと思います。
やはりまずはそれぞれが「個人のビジョン」を持つことが不可欠ですね。
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と、いろいろ紹介しましたが、正直理解できた部分よりも理解できなかった部分のほうが多かった一冊でした。
本書はまたいつか読み返してみようと思います。
最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か | |
Peter M. Senge 守部 信之
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