トーマス・H・ダベンポート、ジェーン・G・ハリスの著書、「分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学」を読んだ。
本書は「ブルー・オーシャン戦略」に次ぐ、ハーバード・ビジネススクール・プレスからの一冊です。
ブルー・オーシャン戦略が競争のない市場を開拓するのが目的だったのに対し、本書は製品や技術では差別化が難しくなった現代において、企業が他者との差別化を図るには事業の実行面や意思決定を最適化する必要があり、そのためには分析力を企業の柱に据えることが不可欠だと説いています。
こういうと、ちまちまとデータを分析するよりも、スピードが重要な現代では直感が重要だとか、それ以前に大胆なビジョンに基づいた意思決定が必要なのだと考えがちですが、そうとも限りません。
もちろん意思決定にはスピードが重要ですが、その意思決定のタイミングまでにどれだけ正確で質のいい情報を収集・加工して意思決定に生かせるかというのは、大きな差別化の要因になります。
最終的に不透明な部分については直感を頼りにするしかありませんが、それ以外の部分については事実に基づいた判断のほうが正確でしょう。
また、そもそもビジョンと分析は矛盾する概念ではありません。
ビジョンには現状と理想の未来を結ぶ戦略が不可欠ですが、戦略を立てる上で現状分析は欠かせないファクターのはずです。
P&G、Google、Amazonなど実際に分析力を武器に成功している多くの企業の事例に加え、分析力を組織力に生かすノウハウが組織戦略、人材、技術という視点から体系化されている本書は、今後自社にどのような形で分析力を取り入れ、生かしていくかを考える上で非常に参考になる内容です。
企業が組織的に分析力を身につけるには、闇雲にデータを収集するのではなく、どのデータにフォーカスするか、どこにリソースを配分するか、そもそもデータ分析でなにをしたいのかといった、明確な戦略があることが大前提になります。
他者との差別化の決め手になるのは何か。
●自社の強み、得意分野は何か。
●データ分析の力を借りたい部門やプロセスはどれか。
●自社事業にとって特に大事な情報は何か。
●情報や知識で業績が大幅アップしそうな部門やプロセスはどれか。
といったことを、理解していなければなりません。
また、実際に分析力を武器にするまでには、非常に長い道のりが待っています。
ソフトウェア・アプリケーションやシステムの整備からデータ収集・測定・分析スキルの開発、業務プロセス・企業文化の変更と、やるべきことは山済みです。
本書によると、調査の結果早くても1年半から3年はかかるようです。
分析力を武器にするまでのロードマップは、5つのステージに分かれます。
第一ステージ
●まずは精度の高いデータを一貫して収集できる環境を整える
●経営陣が勘ではなく事実に基づいて決定を下す姿勢を持っていなければ意味がない
第二ステージ
●限られた範囲で戦術的なデータ分析を始める
●それが大きな変化のきっかけとなり、全社に波及効果をもたらす
●小規模にはじめ、数値で測定できる成果を上げる
●経営陣のコミットメントを得れば次のステージへ
第三ステージ
●まずCEOが分析力を武器にして競争で優位に立つ明確なビジョンを全社に示す
●業務プロセスの見直し、役割分担や責任範囲の変更も必要
●システム面の整備も欠かせない
●全社的なデータの統合化と標準化も推進する
第四ステージ
●全社を挙げて分析力を開発・強化する
●データ分析を戦略的に活用し、他者との差別化を図っていく
●スペシャリストを一つのグループにまとめて戦略的な問題に専念させる
第五ステージ
●分析力は戦略や競争優位を支える柱となっている
本書を通して、自分の会社は今どのステージにいるのか、当面の課題は何なのか等を考えてみてはいかがでしょうか。
以下、私用メモ
分析スペシャリストの集団を生かすポイント
●息長く続ける
・データ分析が企業に根付くには時間がかかる
●IT部門と連携する
●組織上の位置づけに配慮する
・CEOなど経営チームの直属にする
・せっかくの分析力が有効活用されないといけない
●確執を避ける
●使い手の身になる
・シンプルなシステムを構築し、一般社員のトレーニングも丁寧に行う
ビジネス・インテリジェンス(BI)
●データを組織的かつ系統的に蓄積・分類・検索・分析・加工し、予測や最適化、さらには意思決定に役立てる
ビジネス・インテリジェンス・アーキテクチャ
●BIを可能にする組織横断型のシステムやアプリケーション
●高度な情報処理を実行し、必要なとき必要とする人に必要な情報を提供する仕組み
1.収集
●分析力で勝負するために重要なのはどのデータか
●そのデータをどこで入手するか
●必要なデータ量はどの程度か
・大量に必要
・「とりあえず」とか「念のために」集めるデータは不要
・重要度の低いデータは不要
●どうすればデータの質を高められるか
・正確である
・完全である
・現在のデータである
・整合性がある
・コンテキストから切り離されていない
・監視できる
●データの入手から廃棄までのプロセスをどう管理するか
・収集
・洗浄―不要なものを排除
・変換・保存―標準化、統一化、フォーマット化
・保守
2.変換
3.保存
4.分析
5.表示
6.運用
分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学 | |
村井 章子
日経BP社 2008-07-24 おすすめ平均 |
2 Comments
内容が盛りだくさんの本ですね。
手法の部分では中小企業診断士の勉強内容に近いような印象を受けました。
しかし、手法を学んでも実践する事が大事ですねよ。
その為のロードマップは大変参考になりました。
僕も持っているので読んでみます。
マックさん
>手法の部分では中小企業診断士の勉強内容に近いような印象を受けました。
本書では、
大企業よりも中小企業のほうが分析力を取り入れやすいとされてます。
中小企業にとって、分析力は大きな武器となりえそうですよね。
資格試験といえば、私も来週にTOEICを受ける予定です。
お互い、がんばりましょう!