エド・ブラドーの「交渉のブートキャンプ―12回特訓プログラム」を読んだ。
本書は「米国防省、マイクロソフト、ゴールドマン・サックス、IBM、GAPなど、1000社を超える企業が導入した」という、交渉力養成セミナーを「12回の特訓プログラム」として本にしたものです。
私が興味を持ったのは、交渉において相手が得られる満足度は絶対価値ではなく相対価値で決まるという考え方でした。
メンバーは、新しいオーナーが譲歩した内容に満足しているのではなく、譲歩を引き出したプロセスに満足しているのだ。つまり、大切なのは、どのように譲歩するかであり、このプロセスを無視しては、せっかくの譲歩も台無しになりかねない。
例えば、同じ30万円で同じ商品を買ったとしても、当初35万円を提示されたものが交渉によって30万円になった場合と、最初から30万円を提示されて言い値で購入した場合とでは、前者のほうが満足度が高くなりやすいです。
さらに、同じ商品を33万円と30万円で買った場合でも、当初35万円を提示されたものが交渉によって33万円にまで値下げされた場合と、最初から30万円を提示されて言い値で購入した場合とを比べても、前者のほうが満足度が高くなることがおうおうにあるようです。
商品そのものの絶対価値よりも、
●元々35万円のものが安く手に入ったというお得感
●交渉によって自分が得したという達成感
という相対価値のほうが、相手の満足度を満たすようです。
最近は勝ち負けを意識する「Win-Lose」の交渉術が見直され、お互いが満足することを目指す「Win-Win」の交渉術が重んじられていますが、両方が満足する結果というとお互いに利益を分け合う、おしくは妥協しあうようなイメージがあると思います。
しかし、相手が満足度を得るかどうかは相対評価で決まるのならば、
●交渉は目標よりも高い条件=「マキシマム」ではじめる
1.相手の期待値を下げる
2.譲歩の余裕が持てる
3.マキシマムを受け入れる可能性もゼロではない
●譲歩は小さく
●譲歩するたびに同じ額を下げず、だんだん幅を小さくする
●最初の提示を受け入れない
といったテクニックを上手く使えば、こちらは全く妥協せずとも目標どおりの額で合意に達し、かつ相手にも満足してもらうことも可能ですよね。
あらかじめ高めの額を提示することで相手の期待値を下げて、その上で何度か相手への譲歩を受け入れる「フリ」をすることで、期待値とのギャップで最終的には満足して購入させてしまう、というとなんだかもうかなりのタフ・ネゴシエーターに見えてきます。
また、逆にこちらが買う側の場合でも、
●自分に30万円支払う準備がある
●相手の言い値が30万円である
ときに「最初の提示を受け入れない」で、自分は25万までしか払うつもりはないとまずは言ってしまう。
それで最終的に合意額が27万円になったとすると、
●自分は30万円支払う用意があったにもかかわらず3万円安く手に入ったという満足感
●25万しか払うつもりがなかった相手から27万円を引き出したという満足感
をお互いに得ることが出来ます。
これは是非使ってみたいですね。
読んでいるだけでなんだか交渉ができそうな気分になる、面白い一冊です。
交渉のブートキャンプ―12回特訓プログラム | |
Ed Brodow 青木 高夫
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