箭内道彦さんの著書、「サラリーマン合気道―「流される」から遠くに行ける」を読んだ。
本書はタワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE」や資生堂の「uno」で著名なクリエイティブディレクターである著者が仕事術を語ったものです。
特に印象深かったのは、著者の「自分に合うように環境をアレンジする技術」が抜群に優れているところです。
自分を主張するために真っ向から抗うのではなく、上手に自分に合うように周りの環境を調整してしまうその姿は、副題にある、
「流される」から遠くに行ける
というよりも、
流れに乗りながらも、自ら舵を取る
に近いのではないかと思いました。
例えば「制約」というと不自由さの象徴のように思われ、特にクリエイティブな仕事をする人にとっては好ましくないものかもしれません。
が、著者はあえてそれを
誰も見たことのないものを見ることができるサイン
と捉え、制約を前にブレーキを踏むのではなくアクセルを踏むことで、自分では予想できないものに出会う機会にしてしまいます。
また、これは著者が博報堂に勤めていた頃の話ですが、社外に出る時間を多くしてしまうと、社内で面白い企画の公募があったときにチャンスを逃してしまうと思い、また、社外にいるより社内にいたほうが自分をアピールできるのではと思い、出来るだけ社内に居ようとした時期があったそうです。
しかし、そうすることによる弊害ももちろんあるわけで、例えばつまらない会議に呼ばれたり、社外のほうが面白いアイディアが浮かびやすかったりします。
そこで著者は、「社外にいつつも自分をアピールし、面白そうな仕事はしっかり自分に回ってくるような方法」を思いつきます。
具体的には、デスクの上に出先表をものすごく細かく書いておいておくことで、「今日もあいつは忙しく仕事しているんだ」といい方向に過大評価してもらい、誤解してもらったのだそうです。
まさに相手の力を上手く利用する「合気道」のように、流れを利用して遠くに飛ぶ本書の仕事術は、ある意味で処世訓であるとも言える、なかなかおもしろい内容です。
常識と自分らしさの間でもがくのではなく、自分に合う形に常識をアレンジしてしまう。
そして、自分自身も積極的に変化していく。
読みながら線を引きっぱなしの一冊でした。
お勧めです。
以下、私用メモ
アイデアは書き留めない
●アイデアは変化していくもの
●一度書き込んで型を作ってしまうと、変化の可能性を失うことになる
「企画倒れ」を愛する
●あまりにもばかばかしいことを考えられた証拠
●まずは恐れず、企画倒れするぐらいのばかばかしいことを考えてみる
大いに抜け駆けする
●仕事は抜け駆けしないとできない
●抜け駆けする機会=チャンス
●チャンスに照れず、抜け駆けする
失敗を具体的に怖がる
●自分ができる範囲の中で安全にやろうとするから、無難なものしか出てこない
●なんとなく失敗を恐れずに、自分にとって何が失敗なのかを明確にして、それだけを恐れる
キッパリ命令する
●混沌とした時代だからこそ、自分のやるべきことを明確にしてくれる、命令の出来る上司、先輩が求められる
人類みな同い年
●年上への敬意は逆に言えば遠慮
●クリエイティブな仕事をするのに上下関係は不要
ライバルや先生はなるべく遠くで探す
●身近に設定すると視野が狭い競争に陥り、自滅する
●勝ち負けにこだわらないよう、ある意味で絶対に勝てないような人をライバルにする
●異業界の先生を持つことで、他ジャンルの発想やアイデアをもらう
●「営業のイチロー」を目指す
ルールと制約を歓迎する
●型にはまらないと型は破れない
●学校教育は、後で壊したり利用したりするための基礎固め
オンとオフのスイッチを壊す
●仕事が楽しくないと人生も楽しくないという状況を作り、仕事で楽しまないとまずいという気持ちを引き出す
体はやがて名になる
●名前と人生はリンクする
サラリーマン合気道―「流される」から遠くに行ける | |
箭内 道彦
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