岡本一郎さんの著書、「グーグルに勝つ広告モデル」を読んだ。
本書はグーグルをテレビ、新聞、ラジオ、雑誌という既存の広告媒体を脅かすモノとして捉え、それにどう対抗すべきかを主張するものではない(タイトルはそんな感じだが)。
グーグルというよりは、グーグルによって情報が整理されたインターネットと言う新たな広告媒体に着目し、それが今後どう既存メディアに取って代わり、シェアを奪いかねないのか、そして、そうした中で既存メディアの存在意義は何か、どういう方向性を今後打ち出していくべきかを考察したものである。
個人的に面白かったのはテレビだ。
ちなみに私はテレビをあまり見ない(一日換算すると1時間以下)。
はっきり言って、つまらないのだ。
対象が分散しすぎていて、密度が薄い。
テレビというのはあくまで大衆向けのメディアであるから、さまざまな顧客層や興味関心の分布を考えると、中身が最大公約的なものに落ち着いてしまう。
だから10人中8人に「まあいいんじゃないか」という満足感を与えることは出来ても、「最高だ」という満足感を与えるほど尖ったコンテンツはなかなかない。
インターネットが普及する以前は、ターゲット化された顧客層にコンテンツを提供するような映像型メディア媒体はなかったので、それでもみんながテレビを見たかもしれない。
しかし、インターネットで今や誰でも好きなときに好きな情報を知り、コンテンツを楽しむことが出来てしまう。
テレビの前で中途半端なコンテンツをダラダラと惰性的に見るよりも、インターネットで好きな動画をYoutubeで見ていたほうが楽しいのだ。
こうなるとテレビ離れは確実に進んでいき、これはテレビ業界の収益性に大きな打撃を与えかねない。
テレビがあまり視聴されなくなれば、当然企業も高い広告費を支払ってまでCMをのせようとは思わないだろう。
テレビ業界は変化せざるをえない。
著者はユーザーが「好きなときに見たい」(タイムシフト)、「好きな部分だけみたい」(編成権)を求めていることを利用し、従来のテレビ側が一方的に番組を放送するのではなく、ユーザーが好きな時間に好きな番組を見れるような「オンデマンドポイントキャスト」を目指すべきだと主張している。
これにはメリットが二つある。
まず一つは、コンテンツごとによりターゲッティングがしやすくなり、広告の精度が上昇するということ。
もう一つは、過去のコンテンツも見られるようにすることで、番組製作コストを抑え、資産の回転率が上がることだ。
これは非常に良いモデルだと思うのだが、著者は一つ問題があると言う。
それは、テレビがこれまで担っていた社会的な役割が崩壊するのではないかという懸念である。
個人が好きな番組をばらばらに見るようになってしまうと、以前にはあった同じ番組を視聴することによる社会的な連帯感が失われてしまう。
番組を見た後、学校や会社でそれを話題に話すといった、社会をスムーズに動かす潤滑油がなくなってしまう。
そうなると趣味も嗜好も違うような人と話すためのコミュニケーションの材料が失われてしまい、好きな人とだけ付き合えばいいということになってしまう。
社会としてのつながりはどうなってしまうのか。
しかし本当にそうなのだろうか。
同じ番組を見ていないと話題がない、コミュニケーションが取れないということは必ずしもないのではないか。
こんな面白い番組がある、コンテンツがある、と言う情報をお互いにシェアしたり、いくらでもネタはあるだろう。
それに、趣味も嗜好も違うような人と話すための材料がないとは言うが、そもそも趣味も嗜好も違えば同じ番組を見ていないのではないか。
逆に、皆が同じ情報を持っているのではなく、一人一人が違う情報を持っているからこそお互いがそれをシェアすることに意義が生まれ、人とつながる価値も高まるのではないかと考える私は楽観的に過ぎるのだろうか。
グーグルに勝つ広告モデル (光文社新書) | |
岡本一郎
光文社 2008-05-16 おすすめ平均 |