W・チャン・キムさんとレネ・モボルニュさんの共著、「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」を読んだ。
本書は、既に構築された競争ルールの下で限られた顧客層のパイを奪い合う、血みどろの戦いが繰りひろれがれるレッド・オーシャンから抜け出し、未知の市場空間であるブルー・オーシャンを切り開くための指針を示している。
戦略論の新しいスタンダードの名に恥じない画期的な書だ。
現代のほとんどの企業が陥っているレッド・オーシャン戦略が、
●既存の市場空間で競争する
●競合他社を打ち負かす
●既存の需要を引き寄せる
●価値とコストのあいだにトレードオフの関係が生まれる
●差別化、低コスト、どちらかの戦略を選んで、企業活動すべてをそれに合わせる
のに対し、ブルーオーシャン戦略は、
●競争のない市場空間を切り開く
●競争を無意味なものにする
●新しい需要を掘り起こす
●価値を高めながらコストを押し下げる
●差別化と低コストをともに追求し、その目的のためにすべての企業活動を推進する
のである。
そのブルー・オーシャン戦略の土台をなすのはバリュー・イノベーション(value innovation)だ。
イノベーションと実用性、価格、コストなどの調和がとれて始めてこれは実現する。
そしてこのバリュー・イノベーションが、価値とコストのあいだのトレードオフを解消し、買い手と自社両方にとっての価値を高めるのだ。
ブルー・オーシャンを切り開くためには、いくつかのツールとフレームワークが有効だ。
まずは戦略キャンバス(strategy canvas p46)を描き、既存の市場空間について現状を把握することから始める。
業界のおもな競争要因を列挙し、各社がどこにどれくらい力を入れているかをスコア化し、それを線で結べば、戦略の特徴を示す価値曲線(value curve p48)が描ける。
各社の価値曲線がほとんど同じような形状をしているのであれば、全員が既存の競争ルール・顧客パイのもとで争うレッド・オーシャンに陥っている証拠である。
であるならば、買い手に提供する価値を見直し、新しい価値曲線を描く必要がある。
それを可能にするのが四つのアクション(the four actions framework p51)だ。
すなわち以下の質問に対する答を考えるのだ。
1.業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か
2.業界標準と比べて、思い切り減らすべき要素は何か
3.業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か
4.業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か
特に重要なのが「取り除く」「付け加える」であり、これらを通じて、既存の競争要因の枠組みにとらわれる発想から開放される。
そして四つのアクションをアクション・マトリクス(action matrix p58)に落とし込めば、以下の四つの効果が得られる。
1.価値とコストのトレードオフから開放され、差別化と低コストを同時に追及できる
2.「増やす」「付け加える」にばかり躍起になって高コストを招き、製品やサービスにあれもこれも盛り込みすぎている企業に、たちどころに警報を鳴らす
3.あらゆる階層のマネジャーにとって理解しやすいため、活用率が高い
4.マトリクスを何とか埋めようとして、業界での競争要因すべてについて詳しく調べるため、無意識の前提に気づく機会が生まれる
これらを通して生まれた価値曲線には、①メリハリ、②高い独自性、③訴求力のあるキャッチフレーズ、という3つの特徴を備えているはずだ。
では、多数の可能性の中から、商業的に魅力あふれるブルー・オーシャンを見出すにはどうすればいいのか。
答えは、六つのパス(the six paths p73)を活用することだ。
1.代替産業に学ぶ
・代替産業同士の狭間には、往々にしてバリュー・イノベーションの機会がある
・例)「外出して楽しい夕べを過ごす」という目的のための選択肢、レストランと映画
2.業界内のほかの戦略グループから学ぶ
・顧客があるグループから離れて別のグループを選ぼうとする際に、何が決め手になるのか
3.買い手グループに目を向ける
4.補完財や補完サービスを見渡す
・製品やサービスは単独で利用されるのはまれである
・買い手がどのようなトータル・ソリューションを求めているかを見極める
・製品やサービスの利用前、利用時、利用後のシチュエーションを想像する
5.機能志向と感性志向を切り替える
6.将来を見通す
・トレンドが顧客価値をどう変えるか、自社のビジネスモデルにどう影響するか、と知恵を絞る
戦略を策定したら、今度は実行である。
そこには4つのハードル、すなわち①大胆な変革の必要性を従業員に理解させる上での、意識のハードル、②企業にはつきものの経営資源のハードル、③従業員がやる気を損なう士気のハードル、④社内外からの変革への抵抗という政治的なハードルが存在する。
これを乗り越えるには、ティッピング・ポイント・リーダーシップ(tipping point leadership p195)を用いる。
つまり、とりわけ大きな影響力を持つファクターを見極め、そこに資源をあてることで、資源と時間を節約し、有効活用するのだ。
本書では実際に今までにブルー・オーシャンを切り開いた企業の例が随所に紹介されているので、理解の助けになって、非常に分かりやすかった。
是非、すべての人に読んでもらいたいと思う。
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press) | |
有賀 裕子
ランダムハウス講談社 2005-06-21 おすすめ平均 |