関口康さんの著書、「ヤンセンファーマ 驚異のビジョン経営」を読んだ。
ジョンソン・エンド・ジョンソングループ、ヤンセンファーマ株式会社代表取締役社長である著者による本書は、経営に必要な真のビジョンとは何かを示してくれる一冊です。
企業が組織としての強さを築き着実に成長していく上で、
●社員全員が理念を共有し
●共通のゴールに向かって足並みを合わせて全速前進できる
ということは非常に重要です。
そこで企業理念や、目指すべき共通のゴールを示したビジョンが必要になってくるわけですが、問題なのは多くの企業でこれらがただ額に入れて飾っておくためのものになっていることです。
どんなに崇高な理念もビジョンも、それを実行・実現していくのは一人ひとりの社員であって、社員一人ひとりの行動にそれらが反映されていなければ結局は何の意味もありません。
そのため理念やビジョンはただ作ればいいというわけではなく、
●いかに社員一人ひとりに当事者意識、参加意識を持ってもらうか
ということが重要になってきます。
関口さんが上手かったのは、まさにこの部分でした。
ヤンセンファーマ社長に就任した関口さんは、売上高1000億円という達成目標とともに、それを実現していくためのビジョン作りに着手します。
1000億円という売上目標を達成するためには、1000億円企業としての組織や社員のあるべき姿を示し、そして目標にたどり着くためには今何をすべきかを明確にする必要がある。
ここで関口さんが一人でビジョンを作り、「これが私たちの新しいビジョンです」と発表しても、おそらく誰も真剣には理解しようとせず、「額に入れて飾っておくもの」になっていたことでしょう。
実際には、
●営業本部、研究開発本部、人事本部のスタッフ各一名にコンサルタント一名を加えた「ビジョンチーム」結成
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●全社員に対しアンケート実施(売り上げ1000億円企業になるに当たり、会社として、個人として何が必要か、会社の現状をどうおもっているか、どういう会社にしたいか、そのために自分に何が出来るかなど)
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●アンケートをもとにビジョンのたたき台となる大枠をビジョンチームで作成、同時にクレドー(企業理念)との整合性もチェック
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●MC(経営幹部)を集めて一度目の合宿を行い、「良い会社とは何か」「良い会社を実現するために何をするのか」を洗いざらい徹底的に議論
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●MC(経営幹部)を集めて二度目の合宿を行い、ビジョンを文章化
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●『我々の挑戦 Our Challenge~ヤンセンファーマ・ビジョンステートメント~』完成、発表
という流れで作成されました。
ポイントは、上層部主導で進めつつも、しっかりと社員一人ひとりの意見や思いを吸い上げていることです。
これにより、社員は自分たちも関わったのだと言う参加意識を持つことが出来ました。
更にその後、
●「ビジョンセッション」を人事研修で行い、理解を深める
●毎月一度、MCメンバーでビジョンについて話し合う
●ビジョン意識調査アンケートを実施
などを通じビジョンの浸透をはかるとともに、「現状」と「ありたい姿」のギャップを見つけ、課題として認識し、それに対する改革プログラムを実行していくという流れを作っています。
社員全員の目指す方向が会社の目指す方向と一致し、全員の力で「良い会社」の実現に向けて努力していく条件を整えたわけです。
しかしこの「全員参加によるビジョン作成」の問題点は、作成当事のメンバーでは共有できても、作成後に入社した人には理解されない可能性があるということです。
そこで関口さんは、数年に一度見直しをすべき状況が来た際には、再び全員参加でビジョンの見直しを行うことを決意します。
これはビジョンの共同制作者になり、オーナーシップを持ってもらうための工夫であると共に、ビジョンを改善し、より良いものへ変えていくための仕組みでもあります。
このように、「ビジョン経営」に必要な要素をしっかり押さえつつ、かつ7年間で売り上げ3.5倍と成果も上げているヤンセンファーマのモデルは、組織にとって必要なビジョンとは何かについて考えるにあたり、非常に有用な実例だと思います。
ただ、若干読みづらいので、
「ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか」
(http://www.amazon.co.jp/ザ・ビジョン-進むべき道は見えているか-ケン・ブランチャード/dp/4478732701/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1222517987&sr=1-1)
とあわせて読むと、理解が深まると思います。
お勧めです。
ヤンセンファーマ 驚異のビジョン経営 | |
関口 康
東洋経済新報社 2008-08-22 おすすめ平均 |