伝達力の基本 | |
大石 哲之
日本実業出版社 2011-04-28 |
前作、『ロジカルシンキング・リーディング』や『3分でわかる問題解決の基本』を読んで、難しいことを分かりやすく伝えるお手本のような内容だと私は感じました。今日はそんな大石哲之さんの「伝達力」の秘密に迫る本書から、わかりやすく伝える7つのコツを紹介します。特に、「話がわかりにくい」とか、「もっと要領よく説明してほしい」と言われたことがある人には是非読んでほしいと思います。
1.起承転結は使わない
国語の授業では「起承転結を意識しなさい」と教わりますが、これは物語・エピソードを盛り上げるための手法です。推理小説で「犯人はこの人です」と結論から入ったら興ざめもいいところですが、ビジネスでは別です。「かくかくしかじか・・・・・・・で、5分遅れます」と、最後まで話しを聞かないと結論が見えないのでは、聞く側にとって負担ですし、内容がわかりにくくなります。口頭の場合でも、文章の場合でも、ビジネスの場面では結論をまず端的に述べ、そのあとに理由を加えるようにしましょう。
2.3つまでにまとめる
「重要なポイントがいくつかありますので、順番にご説明します。」このような伝え方では、いったい重要なポイントがいくつあるのか、いつ終わりがくるのかがわからないため、聞き手にストレスがかかります。こんなときは、「ポイントは3つです。」と宣言してしまいましょう。5つも6つもあると言われても、そんなに人は覚えることができません。かといって2つでは物足りません。可能なかぎり、3つでまとめるクセをつけましょう。
3.主張と根拠をセットにする
「東京には緑地が少ない。緑地を増やすべきです。」これではなぜもっと緑が必要なのかという部分が主観的な意見となってしまい、説得力が低くなってしまいます。例えば、「東京の緑地は6.9%ですが、それに比べてソウルは27.4%、ベルリンは29%、モスクワは16.2%です。」という具合に根拠が組み合わさっていれば、聞き手にとって説得力が高まります。このように、何かを主張するときは、主張と根拠をセットにするようにしましょう。
4.説得力のある根拠を選ぶ
根拠を述べると言っても、例えば「うちの営業成績が悪いのは、アポイントメントが効率的でないからだ。多くの営業マンが移動と待ち時間で時間を浪費しているという例をコンサルタントから聞いた」というのでは、あくまでコンサルタントの意見が根拠となっており、「伝聞情報」ですし、「数字」でもありません。これでは本当に自社の営業が抱える問題がアポイントメントの効率性なのかどうか、はっきりしません。
根拠としての強さは、
”感覚的な2次情報(新聞やニュース、人から聞いた話)”
↓
”1次情報(直接自分で聞いた情報や調べたデータ)”
↓
”数字を使った1次情報”
↓
”数字を使った1次情報で第三者による調査データ”
の順で高まります。
外部のコンサルタントによる調査データが貴重なわけは、ここにあります。根拠を述べるときは、なるべく強い根拠を示せるようにしましょう。
5.「空・雨・傘」がわかるようにする
「空を見たら曇ってきた。雨が振りそうだ。傘を持って行こう」というのは、「根拠となる事実の観察」「それに対する自分の解釈」「解釈を踏まえて取るべきアクション」の3つが含まれた、分かりやすい文章です。分かりにくい文章というのは、空・雨・傘のどれかが抜けてしまっていることが多いのです。例えば、「日本は赤字国債が増えている。日本円の価値が下がるかもしれない。」では、だからどうするべきなのかというアクションがなく、相手にとっては意図がつかめません。
「日本国債は赤字が増えている。外貨預金を増やすべき。」では、事実から突然アクションにつながっており、あいだの解釈の部分が抜けてしまっています。
これでは相手は、「話が飛躍している」と感じてしまいます。また、「日本円の価値が下がるかもしれない。外貨預金を増やすべき。」では、観察が抜けており、なぜ下がる可能性があるのかが分かりません。
文章を書くときには、「空・雨・傘」のどれかが抜けていないか、チェックするようにしましょう。
6.事実と意見を区別する
部下が事実と意見を区別せずに報告すると、上司はいらいらしがちです。例えば、「本当に安かったんだと思います。」という言い方では、事実なのか、それとも単に部下がそう思っているだけなのか、区別がつきません。曖昧な言葉を使わず、自分の意見には「と、考えます」といった自分が主語の動詞を使うなど、事実と意見の区別がつくようにしましょう。
7.デマを流さない
身近で2つぐらい同じ事象があると、世の中すべてがそうなんだと勘違いしてしまう人がいますが、注意が必要です。例えば「SEが同行しているアポは、営業がひとりで訪問する場合に比べて、高い確率で案件化している。SEの同行を増やそう。」というのはありがちですが、よくよく考えてみると、案件化しそうなタイミングで営業がSEを同行させているだけだったりします。気を付けないと、こういう誤った結論をもとにおかしな施策をうってしまいがちです。相関関係のトリックで無理がないか、よく考えてみましょう。
【まとめ】
上記でもいくつか載せていますが、本書は誤った例文と正しい例文とを対比させて解説しているため、非常にわかりやすかったです。例えば提案書を書くとき、「もう少し説得力がほしいな」という場面などで、重宝しそうだと感じました。繰り返し活用できる一冊ですので、是非読んでみてください。本書は日本実業出版社様からいただきました、ありがとうございました。
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大石 哲之
日本実業出版社 2011-04-28 |