本書を読むと、ジョブズのビジョンは改めてすごいなと感心します。「普通の人にコンピューターを届ける」というのがアップル・コンピューター創業時のビジョンですが、簡潔かつ具体的で、自分達の使命がこれ以上ないほどクリアに分かります。
一方で、多くの企業ではビジョンがあまり意味のないものになっています。その企業を表すために、ビジョン、ミッションステートメント、企業理念、行動指針などなどたくさんのメッセージが作られますが、たいていは何を言っているのかよく分かりません。抽象的すぎたり、「顧客を中心としたベスト・オブ・ブリードな」とか言うぐあいに曖昧な形容詞を使い過ぎたりしているのが原因です。
またひどいことに、外面ではきれいな言葉を並べ立てているのに、内部で一生懸命追いかけているのは経営数字だけということもあります。「顧客第一で」と言っているにもかかわらず、「我々は顧客にどれほど貢献できたのか?」「さらに貢献するには何が出来るか?」という議論はほとんど行われない。変わりに「売上数字が未達な真の原因は何か?」「来季の売上数字を10%アップするにはどうすればいいか?」といった自社のことばかりが議論されている。
ここに、世界を変えるイノベーションを起こす企業と、そうでない企業との、大きな違いがあるのだなと感じました。